ブログをこまめに書き込もうと思いつつ、大分時間が空いてしまった。

写真を撮るということと、ネタ探しをするということのバランス感覚が悪かったこともあるが、今回はこれまで褒め続けていたシグマのカメラ、特にsd Quattroシリーズやdp Quattroシリーズに使われているFoveon X3 Quattroセンサーの大きな問題について触れておく。

起こっていることは簡単に再現できたのだが、どういった理由で起こっているのかがはっきりと分からなかったので考えることに時間がかかってしまった。

上の3枚の写真は、sd Quattro HのRAW(X3F)撮影、sd Quattro HのSFDモード(シャッタースピードを変えたX3Fファイルを複数撮影することによるハイダイナミックレンジ撮影)、SD1 MerrillによるRAW(X3F)撮影の3枚をそのままSPP 6.5.3で現像した写真となる。

それぞれ、SFDモード撮影ではLEDのリビング照明、その他2枚はクリップオンストロボをオフストロボで使ってグリッド光を当てた。一目でみて分かるのだが、sd Quattro Hでの現像ではマゼンタとグリーンの色かぶりが酷いことになっている。特に分かりやすいのはグリップ部分や、ペンタ部のでこぼこ部分にまだらに色かぶりが起きている。一方、SD1 Merrillでは全く色かぶりは出ていない。

なお、シグマの問い合わせ窓口にも確認したが、マゼンタ・グリーン色かぶりは、Foveon X3 QuattroセンサーとFoveon X3 Merrillセンサーのアルゴリズムによるもので、SPPで色修正をして対応してもらいたいとのことだった。

どういった理由でマゼンタ・グリーン色かぶりが発生しているのかを推測した。残念ながら私は光学センサーの専門家ではなく、電気工学も専攻していないので、集めた情報を基に『たぶんこういう事なんでしょう』というただの推測となる。また、シグマにも確認はしていない点は悪しからず。

Foveonセンサーの厄介さについては、大分古くなるがhigashinoさんがSD10の問題点の中でFoveonセンサーについてまとめられていた。higashinoさんの考察を基にして、USPTOが公開している特許を確認したところ、FoveonセンサーはB/G/Rの積層とされているが、実際は大・中・小の器の入れ子を3つ重ねた形状となっている。映像素子単位で見ると、青の容量が最も小さく、赤の容量が最も大きくなっている。

US6332701特許 “Vertical color filter detector group and array” Fig.1 

ところで、容量飽和問題による色かぶりは、べイヤー配列センサーでも起きるデジタルカメラの宿命とも言える。明暗差の大きいところで1映像素子の容量の許容量を超えて飽和しまうと、周辺素子に余剰な電子が流れこんで偽色(べイヤー配列センサーであればR:G:Bが1:2:1の4つの配列)が出るというものだ。ベイヤー配列の場合は、緑素子が二倍あるので、緑素子が容量溢れを起こすと、赤と青に電子が流れ込んでパープルフリンジが発生してしまうというものだ。最近はローパスフィルターレスの機種が増えたが、一般的にローパスフィルターレスでは格子状の布等を撮ると、1画素に複数色が入ってしまうので偽色が出やすいと言われている。

ベイヤー配列センサーと同様に、X3 Merrillセンサーの場合も、最も容量の小さい青素子の容量が飽和してしまうと、緑素子と赤素子の層に電子が流れ込んでしまうようだ。X3 Merrillセンサーがマゼンダかぶりを起こしやすいのはこの理由だろう(赤と緑の偽色は黄色だが、特に赤素子の容量が大きいため赤みが強く出てマゼンダなのだろう)。

そして、X3 QuattroセンサーがX3 Merrillセンサーよりも色かぶりが激しい理由になるが、これは、ITメディアのdp Quattro2の記事のX3  Quattro センサーのイメージ図を見るととても分かりやすい。

ITmediaよりQuattroセンサーの概略図

X3 Quattroセンサーは上記の概略図の通り、解像情報を20M pixcelある青素子から取得し、緑および赤素子はTrue IIIエンジンで解像情報を計算、画像を出力している。Webで書かれている画素数の対比は4:1:1(RGBの順番だと1:1:4)はこの構造を指している。一方、X3 Merrill センサーはそれぞれで輝度情報を取得しているので画素数は1:1:1となる。US特許の構造と、4:1:1の構造を見比べるた推察は、元々、青素子が飽和しやすかったことに加えて、飽和した青素子の電子の解像情報が緑と赤素子に割り振られて計算されてしまうのではないだろうか。その結果が、緑とパープルのまだらの色かぶりになってしまうアルゴリズムなのではないだろうか。

X3 MerrillセンサーとX3 Quattroセンサーを比較すると、X3 Quattroセンサーの粒状感が目立つと言われることが多いと思うが、粒状感はある意味、解像感と表裏一体なので、むしろ、この色かぶりの方が問題に感じる。

X3 Merrillセンサーのままの構造で、センサーからの読み取り速度の問題で画素数を増やすということが難しいのであれば、X3 Quattroセンサーの4:1:1構造と色かぶりが一概に言えない。ただ、頭が痛いのは低感度・超秒露光をした情報を用いるSFDモードでもこの色かぶり問題が出てしまうという事だ。ダイナミックレンジは明らかに他のベイヤー配列センサーと比べると大きいので、色情報・解像情報自体は残っているので、うまく色かぶり補正をしなければならないという所は、現像作業をより手間をかけなければならないという事で、これだけは中々、他人にはオススメしがたいハードルになる。
解決策は、SPPでじっくり色補正をして、必要に応じてLightroomやAdobe Camera Rawで色かぶりを取るという正攻法だけなので、ストロボを使った暗めの写真は面倒臭いとしか言い様がない。これが明るい方であれば全く問題がないのだし、ダイナミックレンジ自体はベイヤー配列型センサーよりも広く、階調情報を保持しているのだから、現像で本来の画質を出せるとは言え、これはクセが強いとしか言い様がない。